アートセラピーの目的

アートセラピーの目的

本やインターネットでアートセラピーの効果や目的について調べていて、混乱した経験はありませんか?
出典によって、書かれていることが全然違うのです。

それもそのはず。アートセラピーの種類やその方法は多岐にわたり、それぞれの手法ごとに目的とするところも異なっています。例えば、シニア世代に携わる人の視点から見たアートセラピーは「認知症予防やリハビリに有効なもの」ですが、社会人にとっては「ストレスケアに有効なもの」といえます。

アートセラピーの守備範囲はとても広いのです。立場が変われば見方も変わるのは当然のこと。けれど、これからアートセラピーに挑戦したい、という人にとってはどれが正しいのか難しいところですよね。

アートセラピーの目的をおおまかに分類すると、以下の4つにわけられます。
まずは自分自身がアートセラピーを何に役立てたいのか?目的を見つめ直すことをおすすめします。

1、心理検査を目的としたもの

絵から読み取れる傾向から、被験者の心理状態を検査する目的で行われるアートセラピーです。
被験者に木を描かせる『バウムテスト』。砂の入った箱の中に、玩具などのアイテムを並べる『箱庭療法』。箱庭療法を簡略化させた『風景構成法』などがあります。

いずれも単独での実施ではなく、そのほかの心理療法と組み合わせて行われることの多いアートセラピーです。
被験者が完成させたものをきっかけに、言語化が難しかった心の葛藤や、本人も気づいていない本心に気がつくような働きかけを行います。

以前は取り入れている医療機関も多くみられましたが、現代では減少傾向にあります。
より有効な心理検査が誕生したことや、価値観の多様化がその理由です。
アートセラピーによる心理分析だけがメインになることはほとんどなく、他の心理検査の補助として用いられることが主流となっています。

2、リハビリ・発達支援を目的としたもの

アート(=芸術)の力を借りて、よりスムーズで有意義なリハビリテーションや発達支援を目的として行われるアートセラピーです。作業療法としてアートセラピーが取り入れられることもあります。

たとえば、音楽療法。
高齢者の発声障害や嚥下障害のリハビリには、発声練習が必要です。けれど、ただ発声練習をするだけではなかなかモチベーションが上がらず継続が難しいもの。
そこで音楽の力を借りて、好きな歌を歌ったりすることで、前向きに楽しく発声練習を行うことをサポートします。

発達障害の子どもの現場では、言語習得に遅れのある子どもに対してメロディーに乗せて言葉を伝えます。身体機能に遅れがあるケースでは、リズムに合わせて動きながら楽しくトレーニングができるように関わります。その他にも、楽器を使用することで他者とのコミュニケーションに役立てたりと、その活用方法は多岐に渡ります。

音楽療法の他にも、指先のリハビリに粘土療法を取り入れたり、塗り絵をしたり。
ダンスセラピーという珍しいものもあります。

リハビリや発達支援を目的としたアートセラピーは、五感のいずれかに特化したものが多く見受けられます。

3、自己表現・自己成長を目的としたもの

絵や音楽など、アート(=芸術)によって自己表現をし、そこから得られる自己成長を目的としたアートセラピーです。

自己表現というのは、読んで字のごとく、「自らを表現する」ということです。
絵でも粘土でも、作品は作成者の分身のような存在。
ひとりとして同じ人間がいないように、ひとつとして同じ作品はありません。それがアートセラピーの醍醐味です。

読み書きができる年齢になると、人と人との情報のやり取りの大部分を「言語」が占めるようになります。SNSの発達とともに、この傾向はさらに強まっています。

言語ももちろん自己表現をするためのツールのひとつですが、言語は抽象度が低いもの。言語化できない感覚、感情はたくさんあります。

その言語化できない部分を表現するために、色や絵や音楽は非常に重要なツールです。
自己表現を目的としたアートセラピーを行うときは、

1,自由に自己表現できる場所を提供する
2,自由な表現を認め(受容)、自己肯定感が高まる関わり方をする

というのが基本的なステップです。

クライアント(アートセラピーに参加している人)は、作品をはなれて見ることで、より客観的に自分を見つめることができます。これが、自己成長に繋がる、いわゆる『気づき』と呼ばれるものです。

クライアントが今まで見えていなかった、見落としてしまっていた世界を見せたり、これまでとは違った角度から物事を見られるようになるための手助けをします。

4、メンタルケアを目的としたもの

メンタルケアを目的として行われるアートセラピーは増加傾向にあります。

例えば、アートセラピーにはグルグルと悩んでいる状態から離れ、一種の瞑想状態を作り出すことができるものがあります。

10嫌なことがあると、そのことを頭の中で何度も何度も繰り返し、10×10×10×10×10×10×10…といったように、自分でダメージを増やしてしまう人がいます。
アートセラピーが、そのような「グルグル思考」から抜け出す手助けとなるのです。

その他にも、メンタルケアの現場では
コミュニケーションの訓練、自己受容、他者受容など様々な目的でアートセラピーが行われています。先に紹介した自己表現や自己成長もメンタルケアの一部と言えるでしょう。

メンタルケアの現場におけるアートセラピーの活用は多岐にわたるため、アートセラピーの教科書でも細かく解説を行います。

About|この記事を書いた人

浜端望美(はまばたのぞみ) 心理カウンセラー 3色パステルアート主宰一般社団法人日本心理療法協会 事務局長ベスリクリニックこころ外来 勤務JAPAN MENSA会員   1986年生まれ。神奈川県横浜市出身。大学卒業後、広告業界に就職。印刷やデザインに携わる仕事をしながら、本格的にカウンセリングを学びはじめる。 2011年心理カウンセラーの資格を取得し転職。椎名ストレスケア研究所(株)に勤務し心理カウンセラー・講師としての経験を積む。その後、心療内科デイケア勤務や研修講師などの経験を経て独立。現役の心理カウンセラーでありながら、優秀なアートセラピストの育成、アートセラピーの普及活動に尽力している。 日本ではまだなじみの浅いアートセラピーを、メンタルケアの現場に積極的に取り入れ、そこから得たノウハウを体系化。『癒し』『デトックス』などという、漠然とした言葉で語られがちなアートセラピーの領域を、論理的に、かつ分かりやすく解説する。論理と感情がバランス良く組みたてられた独自のカリキュラムは、アートセラピストだけでなく、心理カウンセラー、コーチ、看護師、教員、療育担当者、デザイナー、経営者など幅広い層に定評がある。NEXT MORE >>>