アートセラピストになりたい人へ伝えたいこと(学生さん向け)

最近は学校で「気になる職業の人にインタビューをする」という課題が出されることが多いのか、毎年のように学生さんからインタビューのご依頼をいただきます。

ご依頼人はは小学生~高校生までさまざま。
時間がとれる限り協力したいと思っていますが、なかなか難しいことも増えてきたので、私がアートセラピストになりたい人へ伝えたいこと、

その中でも特に、進路を考えている学生さんに向けて伝えたいことを書き残しておこうと思います。

小学校高学年くらいからでも理解できるように、できるだけ簡単に書いたつもりです。

アートセラピーのお仕事に興味を持ったら、ぜひ読んでみてくださいね。

日本にアートセラピーという仕事はない

いきなりですが、まず最初に大切なことを伝えておかなければいけません。

日本にアートセラピーをするお仕事はありません。

日本にはアートセラピーの公的資格(国などが作っている資格)がありません。

これはつまり、アートセラピスト(アートセラピーをする人)が職業として確立されていないということでもあります。

これを読んでいるみなさんは、アートセラピストに会ったことがありますか?

みなさんの周りの人、
学校の先生やおうちの人はどうでしょうか。

ほとんどの人が、アートセラピーという言葉も知らないかもしれません。

知っていても、アートセラピーとはなんなのか、正しく説明できる人はほとんどいないでしょう。

そして、アートセラピーを受けたことがある人、までいくと、それはかなり珍しい存在なはずです。

担任の先生、保健室の先生、保育士さん、お医者さん、看護師さん、スクールカウンセラーさん、、、

アートセラピーに近そうなお仕事の人に聞いても、きっと同じ結果になるでしょう。

それは最初にお伝えしたとおり、
日本にアートセラピーをするお仕事がないからです。

「アートセラピストになるには」で検索してみる

chatGPTでも、Geminiでも、Google検索でもいいです。

「アートセラピストになるには」と検索してみましょう。

すると、いろんな資格が見つかるかもしれません。

これらは全て民間資格と呼ばれるものです。
国が作った資格ではなく、どこかの会社や、個人が自由に作った資格です。

どこかのお絵かき教室が「お絵かき上級者」という資格を作って生徒に賞状を渡している。これと同じ仕組みです。

お絵かき上級者の資格で、どこかでお仕事ができそうでしょうか?

残念なことに、どれだけ頑張ってもお絵かき上級者の資格だけでは、学校にも、病院にも、保育園にも、介護施設にも、就職できないのが現実です。

「アートセラピー,大学」で検索してみる

次に、「アートセラピー,大学」で検索してみました。

すると、いくつかの大学や専門学校が出てきます。

アートセラピーの授業が受けられる学校なのかもしれません。

学生のみなさんは、進路を決める前にぜひ、大学に問い合わせてみてください。

「この大学でアートセラピーを学んで、アートセラピストになった卒業生はいますか?」と。

もし卒業生を紹介してもらえたら、それは流れ星を3日続けて見るほどのラッキーです。

その大学を卒業してもアートセラピストになれる確率はとてもとても低いのに、さもアートセラピストになれるような学校案内を出す大人たちに、私は少しがっかりしてしまうことがあります。

でも、もし「アートセラピーを仕事にしたいのではなく、学びたいだけ」ということなら、もちろんその進路を選ぶ意味はあります。

大学や専門学校は就職するための場所ではなく、学ぶための場所だからです。

では、どうやったらアートセラピーの仕事ができるのか(私の場合)

民間資格もダメ、学校もダメ、と言われると困ってしまいますよね。

アートセラピーを仕事にするための王道ルートは、残念ながらまだありません。

それはここまで書いたとおり、日本ではアートセラピストが職業として確立されていないからです。

でも、私のように日本でアートセラピーを仕事にしている人はもちろんいます。

ここからは、私がどのようにしてアートセラピストとして生きていけるようになったのかを、簡単にお伝えしたいと思います。

アートセラピーができそうな場所で働く

私の場合、それは精神科デイケアという場所でした。

病院の中にあるリハビリ施設のような場所です。

働いているのは、看護師、理学療法士、精神保健福祉士、カウンセラー(公認心理師または臨床心理士)の資格を持った人たちです。はじめて聞く名前もあるかもしれませんね。

精神科デイケアでは学校でいう時間割のように、毎日スケジュールが決まっています。

「お料理」「ヨガ」などのように固定のコマもあれば、患者さんとスタッフで話し合って、そのコマに何をするか決めていく場合もありました。

新米カウンセラーだった私は、そこでアートセラピーのコマを担当することになりました。

先輩にアートセラピーについて教えてもらいながら、自分でも本をたくさん読んだり、勉強会に参加したりして少しずつアートセラピーのことを学んでいきました。

私がアートセラピーを学びはじめたのは、社会人になってからです。
(※具体的にどこで学んだか、どんな本を読んだかについては、長くなるのでまた別の記事で書こうと思います)

次のお仕事先は通信制の高校でした。
不登校経験のある子どもが多く通っていたその学校で、美術の授業や絵が好きな生徒さん、アートセラピーという言葉に興味を持ってくれた生徒さん、時には保護者の方や学校の先生向けに、「アートセラピーしてみませんか?」とお誘いしてみました。

また別の病院で働いていたときは、院長先生がアートセラピーに興味を持ってくださって、患者さん向けのアートセラピーの体験会を開いたこともありました。

そうしているうちに、他の病院や学童クラブ、保育園、介護施設、地域の生涯学習センターの方などから「うちでもアートセラピーをやってくれませんか?」とお仕事の依頼をいただけるようになりました。

その頃、お仕事の依頼を受けるためのホームページを用意したり、ブログを立ち上げてアートセラピーについて紹介したりといった情報発信も自分でしはじめました。

ここまで、社会人になってから3~4年くらい、年齢で言うと20代後半です。
とても早いほうではないかと思います。

大切なのは、職場での信頼関係

大切なのは、その職場で少しずつ信頼を積み重ねていくことです。

私がカウンセラーとしての本来のお仕事(カウンセリング)や、頼まれた雑用(掃除や事務用品の発注や患者さん向けのおたよりを作ること)をきちんとしていなかったらどうでしょう。

いくらアートセラピーを学んで知識があっても、
アートセラピーをやらせてもらえるチャンスはなかなか訪れないのではないかと思います。

毎日の仕事をきちんとこなして、一緒に働く人との信頼関係を積み重ねて…

その先に、「アートセラピーを学んでいるので、この職場でやってみたいです!」とお願いしたら、偉い人がokしてくれる可能性はとても高くなります。

こんなふうに、アートセラピーのお仕事は“作っていくもの”です。

すでに仕事が用意されているような職業ではありません。

もし、小さい子どもを対象にしたアートセラピストになりたいなぁと思っていたら、まずは保育士さんになるのもいいと思います。

保育園や児童養護施設で働いて、子どもや保育のことに詳しくなって、信頼関係を積み重ねて…

その先で、「自由時間にアートセラピーを企画したい!」と職場の人に相談してみる。

どうでしょうか?
アートセラピーができる気がしませんか?

少しだけでも、アートセラピーのお仕事をしているイメージが、湧いてきていたら嬉しいです。

すごく遠回りに見えるかもしれないこの道が、
実はいちばんの近道なのではないかと、今の私は感じています。

ちょっと横道、お金の話し。

ちなみに、私は単発のアルバイトやパートのような収入ではなく、
きちんと自分の家族(夫と子2人)で暮らしていけるくらいのお金をいただいて働いています。

学生のみなさんには、まだまだ先のことに感じられるかもしれません。

でも、収入のこともとても大切な話だと、私は思います。

大人になったら、
どこの地域に住みたいですか?
家はどれくらいの大きさがいいでしょうか?
子どもはほしいですか?
夫婦2人、もしくは1人暮らしもいいですね。
ずっと今の家で暮らすのもひとつの選択肢かもしれません。

お洋服は好きですか?
旅行してみたい国はありますか?
ちょっとおしゃれなレストランへも行ってみたいですか?

収入によって、選べる未来は変わってきます。

だからアートセラピストに限らず、いつか就職するときはお金のことと、それに紐づいてくる未来のことも、頭の片隅に入れておくのがいいかもしれません。

どんな資格(職業)を目指したらいいの?

さて、前の段落では子どもに向けてアートセラピーをしたい人の場合に、まずは保育士として働いてみる、という方法を例に出してみました。

これが私の場合だと、公認心理師(こうにんしんりし)です。心理カウンセラーと言ったほうがイメージがしやすいかもしれません。

公認心理師は『心』の専門家として作られた日本の国家資格で、大学院を卒業して、資格試験に合格すると取得することができます。

その他にも、アートセラピーのお仕事を作っていくために相性の良さそうな資格(職業)はたくさんあります。

『どんな資格(職業)を目指したらいいの?』という問いに対しては、
自分自身が“誰を対象にしたアートセラピーをしたいのか”を考えてみるといいと思います。

なぜなら、アートセラピーには幅広くいろんな人の役に立てる可能性があるからです。

小さな子ども向けなら、保育士や幼稚園教諭。
小学生〜高校生向けなら、公認心理師や養護教諭(保健室の先生)。
アート(美術)自体が好きなら、教員免許を取って美術の先生を目指すのもいいですね。

高齢者の方に向けてアートセラピーをしたいなら、介護福祉士、
障害者の方に向けてなら精神保健福祉士や理学療法士、社会福祉士といった資格もあります。

気になるキーワードがあったら、その資格についてさらに深掘りして調べてみるといいと思います。どれも国家資格なので、図書館へ行けば「〇〇(資格名)なるには」という本が置いてあるはずです。

アートセラピストになりたいと思ったあなたへ

アートセラピーに興味を持ったあなたはきっと、アートの世界に救われたり、何かに深く思い悩んだりした経験がある人なのではないでしょうか。

もしくは、
「なんとなくアートセラピーという言葉が気になった」
「絵を見ることに関心がある」
といったささやかな気持ちでも、何か心動かされるものがあったのなら、ぜひその気持ちを大切にしていただきたいなと思います。

この仕事をしている人間として、“アートセラピー”というあまり有名ではないものに興味をよせてくれる人が1人でも増えたら嬉しいです。

アートセラピーの仕事はとても楽しい

私がこの仕事に対して思っていることは、シンプルに“楽しい”ということです。

学べば学ぶほど、奥が深い。
アートセラピーのお仕事をはじめて15年以上経ったいまでも、そう感じることが多いです。

正解がない世界が好きな人、言葉では表現できないものも大切にしたい人はきっと、アートセラピーを仕事にすることに向いていると思います。

仕事を長く続ければ続けただけ、たくさんの表現に出会うことができます。その一瞬一瞬がかけがえのない感動の連続です。

何歳からでもはじめられる

“何歳からでもはじめられる”、というのもアートセラピーの魅力のひとつなのではないかと思います。

いますぐ学ぶことは難しくても、これから先、40代50代になってからでもアートセラピストを目指すことはできます。実際にそういった方はたくさんいます。

10代には10代なりの、50代には50代なりの感性があります。

どんな進路へ進んでも、いつか「アートセラピストになりたい!」という想いが強くなったら、その瞬間から学びはじめれば大丈夫。

焦らず、まずはいろんな仕事をして社会をのぞいてみたり、とりあえずは人に流されてみるのもいいと思います。

その中で出会う、「好き!」「楽しい!」「おもしろい!」という気持ちは、自分の中にしっかり貯めておくことをおすすめします。

まだやわらかいその感性が、周りからの影響で形を変えてしまったり、無くなってしまわないように、大切にしてください。

まとめ

長くなってしまいましたが、最後にまとめです。

  • 日本では「アートセラピスト」という職業がまだ成り立っていない。

  • 大学で学んだり、資格を取るだけではアートセラピストにはなれない。

  • まずはアートセラピーで「どんな人の役に立ちたいか」を考えてみる。

  • その人たちと関われるお仕事につくと、アートセラピーのお仕事ができる可能性が高くなる。

  • そのためには、毎日の仕事を通してまわりの人と信頼関係をつくることが大切。

「アートセラピストになりたい」という気持ちをうまく言葉にできない人は、まずはこの記事を保護者の方や学校の先生に読んでもらってみてくださいね。

がんばって書いたので、何かのお役に立てれば嬉しいです。

この記事を書いた人

浜端望美 (はまばたのぞみ) 公認心理師/アートセラピスト 2011年より、精神科クリニック・私立高校にてカウンセラーとして勤務する。個人へのカウンセリングの他、集団療法としてアートセラピーを実施。その後、民間企業でのメンタルヘルスの仕事に従事し、企業人へのカウンセリング・アートセラピーの実践とともに、研修講師の経験を積む。 並行して2012年より3色パステルアート®︎の名称で活動を開始。これまでの参加者は2歳〜93歳までと幅広く、延べ6000人以上に指導。現在は3色パステルアートインストラクターの育成も行い、アートセラピーの普及活動に注力している。